1.適格機関投資家特例業務の改正内容とは
金融商品取引法に関し、また大きな改正があります。
それが、今年の5月27日成立し、6月3日に公布されて、1年以内に施行されることが決まっている「適格機関投資家等特例業務」に関する法律の見直しです。具体的な内容はずでに決まっていますので、あとは施行日がいつになるかだけです。
この改正はこれから「適格機関投資家等特例業務」を行う方だけでなく、既存の「適格機関投資家等特例業務」を行う事業者も対象になりますので、無視できない大きな改正であるといえるでしょう。
2.適格機関投資家特例業務の改正の具体的内容
①「適格機関投資家等特例業務」の届出書の記載事項が増える
今までは、適格機関投資家等特例業務の届出書の記載内容に加え、以下の内容を記載する必要があります。
(1)ファンドの投資内容と勧誘する対象となる人
(2)ファンドに出資する全ての適格機関投資家の名称
(3)役員等の履歴書、欠格事由に該当しないことの確認書面
(4)適格機関投資家が投資事業有限責任組合のみである場合はその運用資産残高を証する書面 等
上記の(3)の欠格事由とは、業務廃止命令を受けてから5年間、もしくは、刑事罰に処せられてから5年間たっていない等のことを指します。
ここで注意が必要なのは、既存の適格機関投資家等特例業務を行っている営業者であっても、全営業者がこの法律が施行されてから6ヶ月以内に、上記の内容を追加で届け出る必要があることです。うっかりであってもこの届出を忘れてしまうと、法令違反になるので、注意が必要です。
②適格機関投資家等特例業務を行っている営業者の情報の公表が必要になる
今まで、適格機関投資家等特例業務を行っている営業者には、ホームページが無かったり、類似の名前がたくさんあったり、1号、2号と名前が付いているのに、それが明示されておらず、投資家が契約するときに、初めて知ることもありました。
そこで、今後は、下記の情報を公表することが、義務付けられました。
(1)営業者の代表者の氏名
(2)営業者の主たる営業所や事務所の住所
(3)営業者の電話番号
(4)営業者のHPアドレス
(5)ファンドの事業内容
(6)適格機関投資家の数
この公表の方法をどうすべきかですが、必ずしもホームページで公表する必要はなく、ホームページを作るのが難しいのであれば、紙で印刷して配っても構いません。
③投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドに規制がかかります
今まで、投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドがたくさんありましたが、人も金もきちんとしていない、形骸化したLPSを形式上組み込む等、問題も多くありました。
そこで、投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドについては、今回の改正で規制することになりました。
具体的には、適格機関投資家が投資事業有限責任組合(LPS)だけの場合、少なくともその運用資産が5億円以上なければ、適格機関投資家とは認められません。
この運用資産の5億円以上とは、総資産ではなく、負債を差し引いた、純資産で判定します。
さらに5億円以上という基準をクリアしたとしても、そもそも、営業者と密接に関連する人が、投資事業有限責任組合の50%超を出資していると、
ファンドとして認められません。
これは正直言って、多くの投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドにとっては厳しい条件ではないでしょうか。
投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドで、上記の条件を満たせないファンドはかなり数が多いので、すでに運用している営業者は、早急に、新しい適格機関投資家を探す必要があります。
④投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドは作成する書類が増えます
投資事業有限責任組合(LPS)が適格機関投資家となっているファンドは、今まで作成する必要のなかった書類を作成する必要が出てきます。
具体的には以下の通りです。
(1)顧客勘定元帳、運用明細書等の作成が義務化
(2)ファンドの詳細情報の事業報告書の作成が義務化
(3)出資金払込口座の所在地や資金の流れ等の説明書類を、投資家に渡すことが義務化
そして、上記は法的な義務ですから、当然、金融庁の検査のときに、きちんと上記の書類が整っていなければ、行政処分の対象になってきます。
⑤ファンドに投資できる者は一定の条件を満たす必要がある
ファンドに投資できる者の条件が厳しすぎるとファンドの運営が困難になります。ですから、ここが改正にいたるまでで、一番、議論された部分でしたが、ファンドの営業者だけではなく、ファンドに投資できる人に条件をつけて限定しました。
具体的に、適格機関特例業務を使ったファンドに投資できる者は以下の条件を満たす必要があります。
(1)上場会社、資本金又は純資産5千万円以上の法人
(2)証券等口座開設後1年以上経過し、かつ、投資性資産を1億円以上保有する個人
(3)特例業務届出者の親会社等、子会社等、これらの役職員
どうでしょうか。多くの適格機関特例業務を使ったファンドは個人を対象に営業をしてきましたが、これによって、個人でファンドに投資できる人は、かなり限られてしまうと予想されます。
ただ、これにも例外はあり、ベンチャー・ファンドに該当する場合だけ、上場会社の役員、会社の財務等に1年以上直接携わった役職員等を特例的に、対象としてよいことになっています。
なお、外国人の投資家は、従来と同じで、今回の規制の対象とはなっていません。
⑥金融庁の監督や金融商品取引法違反の場合の罰則が強化される
上記の改正にともない、無届でファンド業務を行った場合や虚偽の届出をした場合の罰則が、懲役1年以下から、懲役5年以下に引き上げられています。
懲役5年以下の罰則では、初犯でも執行猶予とならない可能性が高く、即刑務所行きになる可能性があります。
これはものすごく厳しいといえます。
しかも、営業者に対する 監督上の処分(業務改善命令等)を、金融庁が決定できるようになったのです。ですから、問題があれば、業務改善命令を出したり、業者名を公表されることが多くなります。
⑦適格機関投資家特例業務の未来
以上のことから、多くの適格機関投資家特例業務を使って営業しているファンドは、今後は営業が難しくなるでしょう。そして、今後は、適格機関投資家等特例業務を行なえる営業者の数は激減して、それによって、金融庁の検査にかかる手間や時間が減り、金融庁の検査も行き渡るようになります。
このように、厳しい条件のもとでファンドを作り、検査の対応もしなければいけないとするならば、適格機関投資家等特例業務を選択するのは得策ではないことが多くなってくるでしょう。
そこで、主として個人投資家を相手方として適格機関投資家等特例業務を実施してきた事業者の事業の継続のためには、概ね以下の方向性があると考えられます。
【登録又は届出維持】
(1)適格機関投資家等特例業務でプロ向け業務に絞って展開
(2)第二種金融商品取引業登録又は登録済みの業者を買収
【登録・届出を要しないビジネスに転換】
(1)社債の自己私募に切り替え
(2)合同会社又は外国合同会社の社員権の自己募集
(3)動産又は不動産の売買契約形態に転換
このように、適格機関投資家の特例業務が使える条件はかなりl厳しくなりますので、すでに適格機関投資家等特例業務を行っている営業者も含めて、第二種金融商品取引業や投資運用業に登録する道を選んだ方が、目的を達成する近道なのではないでしょうか。
そして、これが施行されると、悪質業者が一掃されるとともに、か第2種金融商品取引業登録申請等の数が増えることが予想されますので、恐らく登録までの期間が今まで以上に長くなるはずです。
いずれ金商業の登録が必要ならば、今から動いた方が、得策とはいえないでしょうか。
そこで、当事務所では、適格機関投資家特例業務からの金融商品取引業登録をお考えの事業者様の相談を随時受け付けております。
金商業の登録をするか、維持か、廃業かでお悩みの事業者様は、是非ご相談ください。
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