合同会社の社員権とは

合同会社の社員権とは、株式会社でいう株券に似た権利であり、合同会社の有限責任社員たる地位のことです。

「社員」というと会社で働く人のことかと勘違いしてしまいそうですが、会社法でいう「社員」と日常用語での「社員」とはまったく異なります。

会社法でいう「社員」は「従業員」ではありません。合同会社の「社員」は会社で言う「株主」に近いものであり、「社員権」は株式のようなもの、と考えてください。

 

合同会社の社員権募集スキームは金融商品取引法の例外

株式や債券等、「有価証券」そのものでなくても、金融商品取引法上のみなし有価証券の私募については原則として金融商品取引業の登録が必要です。

しかし、合同会社が自らの資金調達のため、社員権を自ら募集又は私募する行為は、金融商品取引業の登録を受けずに行うことができます(金融商品取引法2条8項7号参照)。

これが、「合同会社の社員権募集スキームが金融商品取引法の登録の例外」といわれるゆえんです。

但し、2022年9月に、金融商品取引法の内閣府令が改正され、2022年10月3日に施行されたことには注意を要します。

これによると、代表社員や業務執行社員が社員権の販売勧誘する場合には、従来通り、第二種金融商品取引業等、金融商品取引業への登録は不要です。

しかし、以前とは異なり、合同会社が自社の従業員スタッフや自社の代理店などを使い、合同会社の社員権を購入するよう勧誘する場合には、金融商品取引法の登録が必要になりました。

合同会社の社員権募集の場合に金融商品取引業の適用除外が認められたのは、本来小規模な会社で出資し合ってビジネスを行う場合の便宜のためでしたが、実際は従業員を使って大規模に営業し、募集をかけ、実質上ファンドのような形態で運営されていることから、このような状態を野放しにできず、規制を強めたものと思われます。

これにより、合同会社を設立し、従業員スタッフの人海戦術で社員を多数募集するビジネスモデルは難しくなったと言えそうです。

参考:「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について

 

合同会社の社員権募集スキームのメリット

では、合同会社の社員権募集スキームのメリットとしては、どのようなものがあるでしょうか。

具体的には、以下のようなメリットがあります。

 

①社員権の募集については、金融商品取引業で義務づけられている金融商品取引業の登録が必要ない

金融商品取引業の登録については、数ある許認可の中でも、取得が非常に難しいものであるといえます。したがって、金融商品取引業の登録を希望しても、ハ―ドルが高く、条件をクリアしていないことが多々あります。

しかし、上記のように、合同会社の社員権募集スキームであれば、金融商品取引業の登録が必要ないという大きなメリットがあります。

②多数人から資金を集めることが可能

例えば少人数私募債で資金調達する場合、ファンド組成ほどの手続きは必要ありません。

一方で、勧誘する人数が49名までに限定されていることから、多数人を対象にした大規模な資金調達は難しいというデメリットがあります。

一方、合同会社の社員権スキームの場合、499人までが私募とされており、また勧誘人数の判定も勧誘人数ではなく、実際の権利の取得者でカウントが行われます。そのため、勧誘ベースで49人までが私募となる株式や社債の自己募集と比べて、多人数の投資家に社員権を取得させることが可能です。

③投資対象には基本的に制限がない

一般に、投資家と匿名組合契約を行い、それをFXや株式に投資して利益が出た場合に配当するようなビジネスを行う場合、金融商品取引業の登録が必要です。

資金を集めてそれを集めた資金を自己運用する場合、投資運用業の規制対象外になっていることから、募集行為同様、金融商品取引業の登録は不要です。

したがって、形式上株式やFX等の金融商品に投資をするための合同会社の設立は可能です。

もっとも、投資家から集めた資金を株式やFX等の有価証券に投資する場合には内国有価証券投資事業の権利等に該当しますので、500名以上の募集に該当する行為を行う場合には、有価証券届出書の提出等の開示義務を負いますので注意が必要です。

また、不動産ファンドを行いたい方にもメリットがあります。一般に、不動産の実物不動産を対象とするファンドを組成する場合、不動産特定共同事業の許可を受ける必要があります。

しかし、会社法に基づいて合同会社に出資する場合の当該出資に関する契約は、一般的に不動産特定共同事業契約には該当しないと解されています。

そのため、合同会社は、不動産特定共同事業の許可を受けることなく、実物不動産を取得して、その売買・交換・賃貸借から生ずる利益を社員に分配することができます。

 

合同会社の社員権募集スキームの構築は難しい

上記のように、合同会社社員権の自己募集スキームはかなり大きなメリットがあります。

ただ、合同会社社員権の自己募集スキームは言葉で説明すると簡単そうですが、実際には定款、募集要項をはじめとするスキーム設計に関して、かなりの時間をかけて法的、実務的に詳細な検討を行う必要があります。

また、合同会社社員権の自己募集スキームに必要な書類は難解かつ膨大ですので、契約書や募集要項を素人が作成することはほぼ不可能です。

例えば、合同会社の定款を例にとってみましょう。本スキームを実施するため、普通のひな形通りの定款で合同会社を単に設立しただけでは、合同会社の社員権募集スキームはかなりリスクの高いものになります。

このようなやり方をすると、設立時の社員だけでなく、一般出資者も社員になるため、議決権が発生してしまい、運営はかなり困難になります。

実際、自社でコンサルタントにすすめられるまま当該スキームで社員権販売を行い、運営が困難になってしまった会社様からもかなり前に相談を受けたことがあります。

しかし、詳細を見ると、スキームが違法状態になっており、結局運営は停止されることになりました。

このように、合同会社社員権の自己募集スキームはかなり難易度が高く、素人が安易に行うものではありません。当該スキームの実行にあたっては、金融商品取引法の専門家と相談しつつ、一緒にすすめていく必要があります。

合同会社の社員権募集スキームの問題点

一方で、出資者の議決権を完全に排除する合同会社社員権の自己募集スキームであれば100%安全かといわれると、そうとも言い切れない面があります。

例えば、国民生活センターから、「定款上、出資者の議決権を完全に排除する場合、集団的投資スキームに該当しうる」との見解が示されています。

これは、議決権を100%排除した社員権募集スキームは通常の社員権募集ではなく、実質上は集団的投資スキームと変わらないから、金融商品取引業の登録は必要、という考え方です。

個人的には、合同会社においては広く定款自治が認められている以上、議決権がない=社員権に該当しないという考え方はどうかとは思います。

しかし、このような見解にも配慮し、一定程度の社員の会社への参加権、議決権を確保するスキームを構築する必要があると考えられます。

さらに、そのほかにも平成30年には、金融庁は「合同会社の実態がない場合には、集団投資スキームに該当する」との見解を明らかにしています。

このように、合同会社の社員権募集スキームは100%安全なスキームとはいいがたい面はあるので、一般の会社の担当者レベルで集団投資スキームの代替として安易に一般投資家を勧誘すると、ほぼ100%違法なスキームや運営が困難になってしまうと思われます。そのため、一般投資家相手に合同会社の社員権を勧誘するスキームとしてどのように違法にならないようにするかは行政書士や弁護士等のファンド業務の専門家とともにかなり慎重に考える必要があります。

 

特定商取引法にも注意する

合同会社の社員権募集スキームは金融商品取引法だけでなく、平成29年12月1日より、改正特定商取引法が施行されており、特定商取引法にも注意が必要です。

従来は社員権は特定商取引法の対象外でした。

しかし、法施行に伴い、一定の社債その他の金銭債権や、一定の株式会社の株式、合同会社、合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものが新たに特定商取引法の規制対象となっています。

それに伴い、合同会社の社員権の訪問販売や電話勧誘等の形式での販売にあたっては、書面の交付、クーリングオフ等の特定商取引法に定める規制に従う必要があります。

うっかりこれを守っていないと、刑事罰等になることもありますので、十分ご注意ください。

 

当事務所のサービス

前述の通り、合同会社の社員権販売スキームは実際には見た目よりかなり難しいのが現実です。実際、小規模なファンドを組成するぐらいの手間と時間と高度な法的知識が必要となります。

そのため、一般的な会社が、専門家の関与もなく、自社役員と従業員のみでこのようなスキームを構築するのはほとんど無理であると思われます。

でも、ご安心ください。

当事務所では、全国的に見ても珍しい金融商品取引業についてのサポートを多数行っている事務所です。

様々な面から検討を加え、健全かつ合法的に運営が行えるよう全力でサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

(業務報酬)

合同会社の社員権販売スキーム構築サポート(標準費用):50万円+税~

※ケースにより難易度に幅があり、また、事業スキームによっては受任不可能なケースもございますので、メール、電話でのみでお見積りは行っておりません。初回有料電話相談もしくは事務所での有料相談(1時間以内1万1000円)の中で、事業スキーム、改善点等をコンサルティングさせていただいたうえで、受任可能な場合のみ正式見積もりを行いますので、まずは相談希望日をお知らせください。

※本業務については、東京、埼玉、神奈川など、関東の会社様から多く相談をいただいております。本業務については、ZOOM相談等で全国対応させていただいておりますので、遠方の方もお気軽にご相談ください。