1.適格機関投資家特例業務の必要性

適格機関投資家特例業務についても、相談が多いので、ここで解説いたします。

金融商品取引業者の売上は、投資家と契約上で約束している、ファンドからの報酬です。

そのため、投資家の数を増やして、ファンドの規模を大きくして、運用を成功させることで、この報酬は比例して、大きくなるのです。

だからこそ多くのコストをかけて人を雇ったり、事務所を借りたり、金融商品取引業の登録(第2種金融商品取引業や投資運用業等の登録)を行ったりするのです。

ただ、ファンドを作りたい人たちが、すべて大きなコストをかけてファンドを拡大していきたいるわけではありません。むしろ、知り合い等からファンドへの出資を募り、小規模に運営していきたいというケースも多くあります。

これは例えば、以下のような場合です。

  • 時間をかけず、今すぐに、株、FX、先物などの有価証券に、投資するファンドを作りたい
  • 外国投資ファンド、新興国の未公開株等に、投資するファンドを今すぐ作りたい
  • 昔からの知り合いからお金を集めて、小規模なファンドを作りたい
  • 本業とは違うが、儲かりそうな不動産があるので、ファンドを作って投資したい
  • 初めてファンドを作るが、やってみないと分からないので、小規模に試してみたい
  • 数社のみで出資を募り、投資したい

その場合、投資運用業の登録をするとすると、最低の純資産が5000万円であり、常勤のコンプライアンス担当者も必要で、相当の時間とコストがかかります。

また、第二種金融商品取引業への登録であっても、最低資本金は1000万円であり、常勤のコンプライアンス担当者も必要ですから、簡単ではありません。

そのため、せっかく優良と思われる投資先が見つかっても、あまりにハードルが高すぎて、「とても無理・・・・・・」と断念するケースも多いです。

しかし、実際、副業で小さくファンドを作ろうとするときに、多数の投資家から、お金を出資してもらえるとは考えていないはずです。それどころか、ファンドの総額が数百万円で、5000万円にはるかに達しないこともあるはずです。

これらの人たちまでも、金融庁に登録しなければ、ファンドを作れないとすれば、儲かりそうな投資先があって、知り合いの投資家もいるのに、自由な経済活動を制限してしまうことにもなります。これではあまりに残念な話ですよね。
そこで、金融商品取引法では、一定の要件を満たすことで、登録せずに、ファンドを作ることができる特例を作りました。
これを法律用語で、「適格機関投資家等特例業務」と呼んでいます。

この適格機関投資家等特例業務では、一定の要件を満たせば、投資運用業の登録をしなくても、有価証券の運用を一任で行なうこともできます。

つまり、時間とコストをかけて、金融商品取引業の登録をしなくても、ファンドでお金を集めて、株やFX、外国のファンドで運用することができるのです。これはある意味すごい特例です。

ただ、適格機関投資家等特例業の規制が甘ければ、誰も、投資運用業や第二種金融商品取引業に登録せず、金融商品取引法は抜け穴だらけの法律になってしまうでしょう。

そのため、実質的に、ある程度厳しい要件をクリアしなければ、自由にファンドが作れない制度になっているのです。

2.適格機関投資家等特例業務とは

では、適格機関投資家等特例業務とは、具体的にどのような制度なのでしょうか?

 

適格機関投資家等特例業務とは、下記の4つの要件を満たしているファンドのことを指します。

①ファンドを組成する人が、自己募集し、または自己運用すること

 

投資家から資金を集める会社や個人が、自分で募集の広告を出して、投資家にファンドの説明を行い、自分の判断で運用していくことが、原則となります。また、募集して勧誘する人数は制限がありませんので、インターネット等で公表することもできます。
また、ファンドの運用は、適格機関投資家等特例業務を適用するけれど、ファンドの募集は、第二種金融商品取引業者に依頼することもできます。同時に、自分で募集することでも構いません。
また、ファンドの募集だけ、適格機関投資家等特例業務を適用して、運用は、投資運用業者に依頼することも問題ありません。

ただ、実際には、そのようなことは面倒ですし、やろうと思ってもできないことが多いので、自己募集、自己運用しているファンドが、ほとんどです。

 

②適格機関投資家に、最低1口は出資してもらうこと

 

「適格機関投資家」はたくさんあり、法律で定義されています。この適格機関投資家が適格機関投資家等特例業務の一番のポイントとなります。

実際、定義されている数は相当、多いですが、現実には、下記の4つの誰かに出資してもらうことが、ほとんどでしょう。

  • 第一種金融商品取引業者(※証券会社)、または投資運用業登録のある投資運用業者
  • 投資事業有限責任組合(LPS)
  • 有価証券の残高が10億円以上ある個人、または法人(組合を含む)で届出をした者(大企業等)
  • 外国の第一種金融商品取引業者、または投資運用業者で、届出をした会社

 

最近では、適格機関投資家はプロであることから、金融庁は投資しているファンドが適正に運用されていることにつき、適格機関投資家に一定の責任を求める傾向にあります。

そのため、ファンドのスキームや契約書が適正で、運用もしっかり行われることが確実でなければ、適格機関投資家を見つけることはできないと考えるべきです。

③一般の投資家は、49名までとする

 

一般投資家とは、適格機関投資家(証券会社、LPS等)以外の投資家のことです。知り合いの方や取引先の会社等がこれに該当します。

そもそも、この適格機関投資家等特例業務は、少人数からお金を集める場合の特例です。逆に、不特定多数からお金を集める場合は、投資運用業、第2種金融商品取引業等の金融商品取引業の登録が必要としないと、誰も登録をしなくなります。そのため、人数は、49名と少人数でなければいけません。
また、ファンドが運営されている途中に、一般投資家が自分の持分を細かく分解して売却してしまうと、49名を超えてしまいます。そこで、一般投資家の持分は、一括で売却することしかできません。
なお、適格機関投資家が、投資事業有限責任組合(LPS)の場合には、その投資家が適格機関投資家でなければ、49名の人数にカウントされてしまいます。

さらに、その投資事業有限責任組合の投資家に、投資事業有限責任組合がいた場合には、その投資家が、一般投資家であっても、49名にはカウントされません。

まとめると、あくまで、適格機関投資家等特例業務は、少人数でファンドを作るために作られた特例であるということを、よく覚えておく必要があります。一般に広く投資家を集めてファンドを作りたい人は、投資運用業、または第二種金融商品取引業に登録するしかありません。

④金融庁に、投資家を募集する前に届出をすること

 

適格機関投資家等特例業務では、金融庁への届出となるため、基本的には拒否されることは、めったにありません。
届出自体は、1日で終わります。ただし、実際にファンドの運用を行って、儲かったら届出するとかはダメです。必ず届出は事前に行う必要があります。

また、最近では、金融商品取引法が骨抜きにならないよう、届出を行うときに、金融庁から詳細な質問、ヒアリングが行われるようにもなってきました。

そのため、適格機関投資家等特例業務によって、ファンドを作る場合でも、適格機関投資家は誰なのか、何に投資するファンドなのか、適法に行われるのか、それらを事前に準備しておく必要があります。
このことから、適格機関投資家等特例業務のファンドを組成する場合でも、ファンドのスキーム組成から、契約書の作成、適格機関投資家との協議といった事前の念入りな準備のため、金融庁への届出まで、現実には、1ヶ月程度はかかると考えるべきでしょう。

また、適格機関投資家等特例業務の届出をした場合、1年に1度、金融庁から、モニタリングの調査が来ます。

これはもちろん、この届出を隠れ蓑にしていないかを調査するためです。

現在のファンドの総額や投資家の属性などを、インターネット等を通じて、報告することになります。
これは、期限を守り、必ず、報告してください。

ただし、これは、現在の状況(決算を含め)を、正確に伝えることができれば、何の問題もありません。

 

3.適格機関投資家特例業務を使う場合の注意点

適格機関投資家等特例業務を行う際には、大まかに言って、次の点に注意して業務を行う必要があります。

  1. ファンド運営者の報酬が無料又は実際のものよりも著しく低額であるという虚偽の表示・説明をしてはいけません。
  2. 運用利回りの保証や損失の全部・一部の負担を行う旨の虚偽の表示・説明又はこれを行っているとの虚偽の表示・説明をしてはいけません。
  3. 取引による損失やリスク等のデメリットが全くないとの虚偽の表示・説明をしてはいけません。
  4. 商品や取引の内容(基本的な商品性、及びリスクの内容、種類や変動要因等)について虚偽の表示・説明をしてはいけません。
その他、平成24年4月改正により、以下の点が変更になっています。理由は以下の通りです。
プロ特例業務を行う者として届出を行った業者の中には、プロ特例業務の要件である適格機関投資家からの出資のない投資ファンドを組成・運用する者や、実態のない法人等がいました。そして、これらの者の不適切な行為によって金融被害を受ける投資家も多数に及びました。
かかる事態に対応するため、(1)プロ特例業務に係る届出記載事項に、出資対象事業持分の名称(投資ファンドの名称等)および出資を行う適格機関投資家の名称等が追加されたほか、(2)プロ特例業務に係る届出書に登記事項証明書等を添付することが要求されることになりました。

 

4.総括

実際、適格機関投資家等特例業務の届出をした会社を金融庁のホームページでチェックしてみると、すごい数が登録されているのが分かります。

それだけ、第二種金融商品取引業や投資運用業のハードルは高く、また、適格機関投資家等特例業務は、使いやすい制度だと、みんなが考えている証拠です。

いきなり、金融商品取引業の登録はハードルが高い方は、適格機関投資家等特例業務で作ったファンドを、あとから、普通のファンドに移行することも可能ですので、最初は、適格機関投資家等特例業務のファンドを作って運営することで、経験を積んでからでもよいのではないでしょうか。

このように、適格機関投資家等特例業務は非常に使い勝手のよい制度なので、ファンド設立を考えておられる場合は、是非ご検討ください。

なお、小規模なファンドをしてみたいが、適当な適格機関投資家を知らない、というケースは多いと思います。

そのような場合、場合により、当事務所から、適切な適格機関投資家を紹介することも可能ですので、お気軽にご相談ください。

(※適格機関投資家の紹介は、紹介のみ単独でのご依頼はお受けできません。適格機関投資家の紹介は、適格機関投資家等特例業務の届出手続きをご依頼とセットの場合に限らせていただきます。また、当事務所での事前審査、また適格機関投資家の社内協議がございますので、内容が不適格と判断された場合必ずご紹介できるわけではございません。その点ご注意ください)

 

適格機関投資家特例業務のお問い合わせは・・・・・・・

TEL:06-6375-2313(※相談予約制・相談費用:1万円(税別)1時間)

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